じいちゃん道路で産まれたて

チャリンコをこいで帰宅途中、野生のじいちゃんを見た。まだ産まれたばっかりらしく、道路にうずくまっている。しばらく様子を見ていると立ちあがるそぶりをみせたが、まだ骨と筋肉が出来上がって間もないからか、立ち上がろうとしては何度も道路に倒れる。
手を貸すのは自然界の掟に逆らう事なので駄目だとわかっていたのだが、どうしても我慢できず、チャリンコを停めて近寄る。野生のじいちゃんは怯えたのか「大丈夫です、大丈夫です」と鳴いた。
僕は怯えさせないようにゆっくり傍に座り、そっと脇の下に手を差し込んだ。「いきますよ?せーの!」と気をいれ、野生のじいちゃんの身体をぐいっと持ち上げる。
立ち上がった野生のじいちゃんは最初ふらふらしていたが、やがて立つ事に馴染み「ありがとうございます!」と鳴いた。
僕が心の中で“大丈夫ですか怪我してないすか?あれ?酒飲んでんの?”と思うとそれに答えるように、「大丈夫です!ありがとうございます!」と鳴いた。

僕はチャリンコにまたがり“気をつけてくださいね”と思い、ペダルを踏み込む。
背後で野生のじいちゃんが「ありがとうございます!ありがとう!」と鳴いた。僕は、なんで最後のありがとうはため口やねん、と呟いた。